ある生徒さんのレッスンのお話です。
いつものように生徒さんの「望み」を聞きました。
音楽大学へ通っている方がレッスンを受けにいらっしゃいました。専攻はトロンボーンです。
レッスンの「望み」は曲を聴いて欲しいとのことでした。
曲はバロック時代の名曲、原曲はチェロと通奏低音ですがトロンボーンでよく取り上げる曲です。
ゆったりした流れで始まりました。音ムラもなく、音符の長さを正確に吹いています。さすがに音大生ですね。
しばらく演奏して頂いて、どんな音楽にしたいのかよく伝わってきました。
しかし、音がなかなか伸びてきませんね。少しくぐもったような響きです。聴きながら、この音質はご本人が求めている音楽とは合っていないように感じました。
ご本人は楽譜をよく見て、一所懸命に演奏しています。どちらかというと、譜面台に「かぶりついている」ように見えますね。胸が落ちて、上腕が身体にくっ付いていています。
なるほど。
楽器の構え方をもう一度見せて頂きました。
どうやら手首から楽器を持ち上げ始めているようです。
私もそうでした。
アタマが動いてカラダが全部ついてきて。
まず肘から前腕の動き、それから肩から上腕の動きを、補助しながら確認してみます。手首にはマウスピースを口につける際の調整役をしてもらいます。
そして失礼ながら「膝カックン」をやらせて頂きました。ビックリさせてごめんなさい。
やはり脚が「気をつけ!」になっていましたね。股関節も固定されていました。これはスムーズな呼吸の妨げになります。大切なところです。
少し歩いて、足をやや前後にずらして立って頂きました。膝は固まっていません。
それから動きのお手伝いをしながら、腕ぜんぶの動きを「思って」構えてもらい、好きな音を吹いてもらいました。
スムーズな息づかいで、よく伸びる音です!
「違いが分かりますか?」 と聞くと、笑顔で「はい!」と答えてくれました。
曲を吹いても音自体に表情が出てきましたね。ご本人も響きの違いを実感されているようです。
よかったです。
あなたの「思い」のお手伝いが出来たなら本当に嬉しいです。
これからも音楽を奏でていってくださいね。
こんな事がありました。
なかなか上手くいかないフレーズ。
「そのフレーズを吹くときにどんな事を思っているの?」と聞くと「音をはずしたくない、はずれたらどうしようと思って」と教えてくれました。「はずれる」とは自分の意図しない音が出てしまう、または音が出ない状態です。
とても真面目に練習に取り組む生徒さんです。もちろん頭の中で歌ったり、息を上に流すといった事も思っています。それでも「はずしたくない」が最優先、1番に思っているのです。
「はずしたくない」と思っているという事は、まず1番最初に「はずれる」「はずれるかも」と思っている場合があります。そうでなくては「はずしたくない」と思う必要はないですよね。
楽器を吹く、音楽を奏でる事の意味の一つに、自分の内から外に向かって心を込めて発信し、聴いてくれる方の心を揺さぶるという事があると思います。
聴いている方が何に心を揺さぶられるのか?どんな風に揺さぶられるのか?何を感じているのか?それは分かりません。私達はただ心を込めて発信するだけです。
その時に「〜したくない」と思って吹くのはどうでしょうか?
正直に言って、私も「はずし」たくはありません。
聞いてみました。
「はずしたくない」ということは上手く吹きたいという事だよね?
うなずいてくれました。
「はずしたくない」と思っていてもいいんだよ。でも、そう思う事は上手く吹く事に繋がるかな?そう思ってもいいから、どんな事を思って吹いたら上手くいきそうか言ってごらん。
真剣に練習している生徒さんです。次々と出てきます。どうしたら上手くいくのか?その為の知識や経験は十分に持っているのです。
持っていないものがあるとすれば、もしかしたらそれは「自分を許してあげる心」なのかもしれません。
「はずしたくない」という気持ちがあっていいよ。あってもいいんだ。僕だってあるさ。みんなあるんだ。その気持ちを3番目4番目にして、上手くいきそうな方法を1番目2番目に思ってみようよ。音楽を強く想って試してみようよ。さあ思って吹いてみて!
今日はどうだったかな?そう思えたかな?
大丈夫ですよ。あなたがそう思えるように私がいるのです。